R/C/T 残像メンタルトレーニング

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高岸弘のコラム

2010.08.03
高岸弘のコラム

重さは減り、細胞の数も減り……

定説によれば、人間の脳は、生まれたときの重さが三七〇~四〇〇グラム。
これは体重の約一〇パーセントにあたるというから、赤ん坊が頭でっかちなのも当然である。
しかも、脳の成長のスピードは体のほかの部分に比べると段違いに速く、生後六ヵ月で二倍、七~八歳ですでに大人の脳の重さの九〇パーセントに達する。
その後は次第にスピードがゆるやかになり、男性は二〇歳、女性は一八~一九歳で完成するという。

完成した脳の重さは、平均的な日本人の場合、男性が一三五〇~一四〇〇グラム、女性が一二〇〇~一二五〇グラム。
男性と女性ではそもそも平均体重に差があるので、男性のほうが重いといっても少しも自慢にはならない。
体重に占める脳の重さの割合は、二・二~二・五パーセントといったところだろうか。

男性の脳は、五〇歳頃まで重さはほぼ変わらず、それから減り始め、六〇歳を過ぎると減少が目立ってくるという。
一方、女性の脳は、二〇歳を過ぎるといくぶん軽くなる傾向を示すが、五〇歳頃に再び重くなり、以後、男性より数年遅れて軽くなっていくという。
なぜ、女性の脳が二〇~四〇歳頃にいったん軽くなるのかは、わかっていないらしい。

脳の重さは、知能には関係ないとされる。
その例証として、歴史上の偉大な人物にも平均より軽い脳の持ち主がいるという話をよく聞かされるが、五〇歳まで二〇歳と同じ重さでありながら、そのあと軽くなっていくと言われると、どうも気になる。

いやいや、問題は重さではなく、脳細胞(「神経細胞」あるいは「ニューロン」とも呼ばれる)の数である。
人間の脳には、千数百億もの脳細胞があることになっている。
このうち、人間を人間たらしめている大脳皮質には約一四〇億個。

驚いたことに、この脳細胞の数は、生まれたときにすべてそろっているのだという。
誕生後に数が増えることはないし、また、壊れても決して再生しない。

脳細胞は、二〇歳を過ぎる頃から、一日あたり二〇万個以上が死滅していくという話を聞いたことがある。
そのとき、ちょうど二〇歳を目前に控えていた私は、大いにあわてた。
急いで計算して、一日一〇万個=一年で三六五〇万個=五〇年で一八億二五〇〇万個。
七〇歳まで生きるとして、大脳皮質の細胞のみが死滅すると考えても、一四〇億個のうち約二〇億個。
まだ一二〇億残っているから大丈夫だ、と安心したのを覚えている。

とはいえ、まだ人生の何たるかを知らない二〇歳の頃から、早くも減少する一方だというのは、あまり気持ちのよい話ではない。
脳が軽くなり始める五〇歳の時点で約一一億も失っているのだから、やはり気になる。

いやいや、問題は脳細胞の数ではなく、ひとつひとつの脳細胞がいかに活発に働いているかである。
つまり、細胞が四方ハ方に樹状突起を繰り出し、ほかの細胞の突起と結合して(この結合部分を「シナプス」という)、いかに密に回路を張りめぐらすかである。

実際、赤ん坊のときにも同じ数の脳細胞があるのである。
しかし、それらはまだ大人のようには働いていない。
ただし、「オギャー」と産声を上げたとたん、ものすごいスピードで網目のように回路を張りめぐらしていく。
シナプスを通って細胞の連鎖を次から次へと伝わっていく流れが脳の働きそのものであるとすれば、この回路さえ怠りなくつくり続けている限り、なんら心配することはない。

ところが、ここで「ガンコ者」が立ちはだかる。
経験を重ねて太くなった回路のみに安住し、新たな回路づくりを試みようとしない者である。

このように、中高年になると脳は次第に軽くなり、脳細胞の数は減る一方で、あまつさえたいていの人が「ガンコ者」となる。
老化するのも当然である。
だが、これでいいのだろうか。
座して、ただ脳の衰えゆく姿を見ているだけでいいのだろうか。

(続きは次回へ持ち越し!)

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