R/C/T 残像メンタルトレーニング

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高岸弘のコラム

2010.08.19
高岸弘のコラム

中高年はあきらめていない

私は職業柄、「ひらめき」や「インスピレーション」に無関心ではいられない。
経験がものを言う部分も大いにあるが、「ひらめき」がなくなれば建築家の存在価値は半減する。
「ガンコ者」も大敵である。
ときどきこれが顔をのぞかせていることに気づくと、私は、胸の内で「くわばら、くわばら」とつぶやくことにしている。
「ひらめき」は緊張しているときには生まれない。
リラックスすることが大事だし、「ひらめき」を現実化するにあたっては、ここぞというときの集中力も不可欠である。
いかにして「リラックス」と「集中力」を得るかは、私にとっても長年の課題だった。

だから、あとで詳しく述べるが、「残像」の利用という手立てを発見したときは嬉しくなった。
そして四年前、嬉しさが高じて『思いのままに脳を動かす「残像」力』(講談社)という本まで出してしまった。

一介の無名な建築家の書いたものだから、大いに怪しまれて捨ておかれるのがオチだろうと思っていたら、予想外の反響があった。
事務所に問い合わせの電話が殺到し、半年間で約四五〇件。
ピーク時には本業が手につかないぐらい、てんやわんやのありさまだった。

それらの問い合わせを、私は記録に残している。
男女比は、およそ四対一。
職業はさまざまで、会社役員、営業マン、医師、教師、僧侶、劇団員、音楽家、ゲームソフト開発者、主婦、学生……。
水泳教室やテニス教室の指導員、中学・高校の運動部の指導者、学習塾経営者の数が抜きん出て多かったのには、なるほどと思わせられた。

年齢を答えてくれなかった人が多かったが、答えてくれた人でみれば、四〇歳以上の人とそれ未満の人がほぼ同数。
最高齢は七二歳、最年少は一七歳。

正直なところ、四〇歳以上の人が多いのには驚いた。
どちらかと言えば、スポーツ選手や若手のビジネスマンを意識して書いたつもりだったから。
七〇歳の男性の記録には、「残像トレーニングを高齢者がすべきです」とある。
決してあきらめていない中高年諸氏が少なからず存在することに、私は大いに勇気づけられた。

さよう、中高年の脳も、まだまだ捨てたものではない。
もしかしたら、脳のどこかで新たな細胞分裂が起こっているかもしれないし、まだ手つかずの部分が七〇パーセント以上も残っているかもしれない。
物忘れが激しくなったとか、機転が利かなくなったとか言ってしょぼくれている場合ではないのである。
日々の暮らしに何か新しいことを採り入れ、脳に次々と刺激を与えてみる必要がある。

私も、五〇歳を過ぎた今なお、愚にもつかぬことを考えたり実行したりしている。
なかにはお笑い種に類するようなものもあるが、それらをあえて書きつづってみることにしたのは、日夜、奮闘努力しているご同輩に少しでも寄与したいと思ったからである。
まさに「言いたい放題」の感は免れないが、専門書ではないので、どうかご容赦いただきたい。

せっかく「脳」を持って生まれてきたからには、できるだけ消費して死にたい。
たとえ中高年からでも、何かを始めれば、五〇パーセントぐらいは使えるような気がする。
若い読者が常に意識的に取り組んでいけば、七〇パーセントぐらいには達しそうな気もする。
そうして天に昇ってこそ、人間として生まれた甲斐があったというものではないだろうか。

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