R/C/T 残像メンタルトレーニング

R/C/T 残像メンタルトレーニング

高岸弘のコラム

2011.08.10
高岸弘のコラム

「集中」のなかの「リラックス」

さて、「残像メンタルトレーニング」は、まず「リラックス」し、次いで「集中」するための手法であった。
繰り返して言うと、これは、スポーツでもビジネスでも、当面の目標に対して集中することによって、自らの持てる力を100%発揮し、願った成果をあげることを目的としていた。

だが、人間の、”脳力”は、必ずしも集中しているときにのみ発揮されるとは限らない。
斬新なアイデアや発想というものが、むしろリラックスしているときに浮かぶというのはしばしば経験することだし、歴史上にもそういったエピソードが数多く残っている。

ギリシアの数学者・物理学者・天文学者のアルキメデスが、入浴中に偉大な発見をしたのは有名な話である。
あるとき、アルキメデスは、シラクサのヒエロン王に呼ばれて次のような命令を受けた。
「この王冠が確かに純金で、金細工師に与えたものと同じ分量の金でできているかどうか調べよ。しかも、王冠を決して傷つけてはならない」

当時、すでに金に銀や銅を混ぜて合金をつくる方法が発明されていた。
しかも、その合金は、見た目では純金か合金かを区別することはできない。
ヒエロン王は、ある金細工師に金の塊を渡して新しい王冠をつくるように命じたのだが、出来上がったものが合金ではないかとの疑いが持ち上がったため、アルキメデスに鑑定を依頼したのだった。

アルキメデスは、もし王冠が合金でできているなら、同じ重さの金の塊と比べたとき、体積が違っているはずだと考えた。
だから、両者の体積を比較してみればよい。
しかし、立方体や球体のような規則的な形をした固体の体積ならまだしも、王冠のような不規則な形のものの体積は、どうやって測ればよいのか。
今なら中学生でも知っている方法が、当時はまだわかっていなかったのである。

日々、その方法を求めて考えていたが、一向にいいアイデアが浮かばない。
考え疲れた彼は、息抜きのために公衆浴場へ出かけた。
裸になったアルキメデスが浴槽に足を入れると、ちょうどいっぱいになっていたお湯があふれ出した。
腰までつかると、さらにお湯があふれ出した。
そのときである。
突然、アルキメデスは「わかった、わかった」と叫びながら浴槽を飛び出し、素っ裸のまま通りへと走り出ていったのである。

彼は、何がわかって興奮したのだろうか。
もちろん、王冠の体積を測る方法である。
浴槽からお湯があふれ出るのを見たアルキメデスは、湯の中にある自分の体とあふれ出たお湯の体積が同じであることを瞬時に理解したのである。
体であろうと王冠であろうと、それは同じこと。
水を満たした容器に王冠を入れ、あふれ出た水の体積を測れば、それが王冠の体積になるというわけだ。

かくして、王冠は合金でできていることがわかり、金細工師は裁判にかけられた。
この公衆浴場での発見は、すぐに「浮力」の発見に結びつく。
「アルキメデスの原理」といえば思い出される方も多いだろう。
「物体を液体の中に入れると、その物体が排除した液体の重さだけ軽くなる」というのを私も確かに習った。

高校で化学を勉強した人なら、「ベンゼン環」という言葉にうなずくかもしれない。
有機化合物の骨組みを示す図で、私はうっすらとしか思い出せないが、炭素やら水素やらが亀の甲のように六角形をして結びついている、あれである。
この構造を明らかにしたのは、19世紀後半のドイツの化学者ケクレ。
そのきっかけは、仕事に疲れた彼が、ひと息入れようと椅子を暖炉のほうに向け、気持ちよくなってうとうとしたときに見た夢にあるという。
原子のようなものがすべて蛇のように絡み合い、回転しつつ運動している。
ところで、あれはなんだろう?蛇のうちの一匹が、自分の尻尾をくわえて、私をあざ笑うように旋回しているじゃないか……。
その瞬間、電撃に撃たれたように目覚めた、とケクレは回想している。
自分の尻尾をくわえてぐるぐるまわっている蛇の姿から、彼は、ベンゼンの環状構造についてのヒントを得たのである。

アルキメデスやケクレのエピソードは、卓抜な発想が「リラックス」したときに生じるものであることをよく物語っている。
しかし、だからといって、のんびり湯につかったり、日がな一日うたたねをしたりすれば、いつでも妙案が浮かぶというわけではない。
アルキメデスにしてもケクレにしても、その前に著しい「集中」の時間があったからこそである。

誰でも「集中」には限界がある。
人によって、それは1時間だったり10時間だったりするだろう。
その間、考えに考え、悩みに悩んで疲れ果てると、ふと意識が浮遊したような瞬間が訪れる。
そのとき、「ひらめき」というものがやってくるのではなかろうか。
「リラックス」して「集中」する。
「集中」して「リラックス」する。
これを意のままに行えるようになれば、スポーツでもビジネスでも、学問・研究の面でも、自らの”脳力”を存分に発揮できるようになることは間違いなさそうだ。

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