R/C/T 残像メンタルトレーニング

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高岸弘のコラム

2011.09.05
高岸弘のコラム

だましのテクニック

人間の脳は意外にだまされやすい。

梅干しを見ると、食べてもいないのに、酸っぱさを感じて唾が出てしまうという例はよく知られている。
怖い夢を見て飛び起きると、体中が汗びっしょりだったというのも同じ。
脳が、夢の中の恐怖を現実の出来事と勘違いして、冷や汗や脂汗を流すよう指令を発したのである。

いわゆるメンタル・トレーニングというものは、自分で自分の脳をだます訓練と考えてよい。
「プラス思考」は、本来なら悪い出来事を「いいことだ、いいことだ」と脳に刻みつけることによって、脳の積極的な側面を引き出そうとする。
「イメージ・トレーニング」は、実際はどうなるかわからないのに、自分に都合のよい展開を思い描くことによって、その方向に沿った脳の力を引き出そうとする。

「ルーティン」も、脳をだますテクニックのひとつ。
ある行為によって、脳は心身を最良の状態におくよう指令を発する。
いったんこのような回路を開き、訓練によってその回路を太くしていくと、本当は心身の状態が最悪だったとしても、その行為を実施しさえすれば、脳は、最良の状態にもっていくべく奮闘・努力するのである。

私と妻のような「ルーティン」の例は、行為と結果の間に確たる根拠はない。
また、回路を太くしようにも・その手法が見つからないから叶わず、したがって効果のほども定かではない。
もっとも、妻の場合でいえば、客観的な経済状態の如何にかかわらず、本人が、「おまじない」のおかげで今月もお金のことでくよくよしないで済んだ、と思っているのなら、それはそれで効果があったということにはなろう。

ところで、こんな曖昧なものではなく、「ルーティン」の効果のほどを客観的にも高めようとして考え出されたメンタル・トレーニングの一手法がある。
「バイオ.フィードバック法」と呼ばれるものだ。

オリンピックの射撃選手のなかに、ゲージに入る前に必ず歌をうたう者がいる。
そうすると集中力が増し、最高のコンディションにもっていくことができるという例があるが、これは、その手法を使ってつくり上げた「ルーティン」である。

では、「バイオ・フィードバック法」とはどんなトレーニング法なのだろうか。

それを説明する前に、まず「フィードバック」という概念について述べておくと-。
「フィードバック」とは、もともとは制御工学や通信工学の言葉。
入力によって出力が決まるシステム、つまり、ある出力から得られた情報を入力し、それによって出力を調整しながら行うシステムのことだ。

動いている標的を戦車砲で撃つ場合のことを考えてみよう。
戦車砲そのものの性能を熟知しておくのは当然だが、それだけでは標的に命中させることはできない。
標的の大きさや進行方向・速度などをしっかり把握してから撃つ必要がある。
一発目に失敗すれば、標的の前後左右、いずれに外れたかの情報をもとに、角度や強弱を修正して二発目を撃つ。

人間の行動や行為も、ほとんどこの「フィードバック」によって成り立っている。

たとえば、道に落ちているものを拾おうとしたとき、単に腕を伸ばしただけでは拾うことはできない。
まず、落ちているものまでの距離がどのくらいか、そのものの重さがどのくらいかを予測する(入力する)。
そしてその予測に基づいて、腰をどのくらいかがめればよいか、腕をどのくらい伸ばせばよいか、また、拾い上げるためにはどのくらいの筋力を発揮すればよいかを脳が決定し、行為に移る(出力する)。

この過程は瞬時に行われるし、生まれてこの方何度も繰り返していることだから、まず判断に誤りはない。
あなたが小学生の「女の子」ではなくて妙齢の「レディー」であれば、その際、どうすれば美しいしぐさで拾えるか、どうすればミニ・スカートの奥をのぞかれないで済むかまで、ちゃんと計算されているに違いない。

それでも、サイドボードの下の隙間に入り込んだ、目に見えない百円玉を拾おうとするときは、腕の伸ばし方をしばしば間違える。
落ちているものが未知の物体だったりすると、最初に決めた筋力では持ち上げられないこともある。
すると脳は、その失敗の情報を入力し、腕の伸ばし方や筋力の出し方を修正する。

ものを拾おうとするあなたに注がれる、男の意味ありげな視線に蓋恥心や不快感を覚えたときも同じ。
脳はその経験を生かし、しゃがみ方を工夫させるのである。

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