昼にもしたい「夜の思考」
私はここで、建て前と本音、表と裏の使い分けについて批評する気はない。
しかし、昼に活性化するゾーンと夜に活性化するゾーンをはっきり区分けするか、それとも渾然一体とするかについては、ヨーロッパのほうに軍配を上げる。
つまり、昼間の思考と夜の思考の融合に重きを置く。
『昼夜をともに知ること』で列挙した人間の夜の状態の項目を見ると、そのとき、大胆な発想や断固たる決断がなされるのも充分うなずける。
それはまた、創造性を問われる仕事をする人にとっては必要不可欠の要素でもある。
作家や画家、デザイナーといった職種の人たちが主に夜間に仕事をするのは、理由のないことではない。
しかし、「創造性」は今や、こうした職種の専売特許ではあるまい。
一般企業にとっても、昼間の思考と夜の思考新商品の開発や新ルートの開拓は企業の命運を左右する重大事である。
担当者は、「夜の思考」パターンに自らの脳を差し向けなければならない。
私は普通、午前10時から午後6時までを「昼の部」と称し、設計の実務的処理や打ち合わせに充てている。
午後6時から深夜までの「夜の部」は、アイデアを考えたり、本の原稿を書いたり、講演のプランを練ったりして過ごす。
同じことを、世のサラリーマン諸氏も行っているはずだ。
昼間の時間は何かと忙しい。
取引先との打ち合わせや社内の会議、それに電話は四六時中かかってくる。
だから、それらが一段落し、ほとんどの同僚が退社した午後の7~8時過ぎになってから、企画の立案や会議用資料の作成に取りかかるのではないだろうか。
それは、昼間の忙しさという物理的な理由はあるにせよ、やはり、「夜の思考」パターンに入る時間帯のほうが実効が上がると、無意識のうちに理解しているからにほかならない。
とはいえ、これを残業して行わねばならないのは会社側の都合。
どうせなら、就業時間内の仕事としてこなしたい。
昨今は「フレックス・タイム制」が普及しつつあるから、たとえば企画立案や商品開発の部門に所属する人は、夕方から深夜までの勤務体制にすることも一案であろう。
この話を、ある大手企業の商品開発担当の知人にしたら、彼は言下にこう言った。
「俺は嫌だね。だって人間は、昼、活動して、夜、寝るようにできているんだ。
何千年もの歴史を刻んでそうなっているんだ。これはもうオキテだよ。
それにもし、そんな勤務体制になったとしたら、お前の言う”わがままな脳(つまり大脳辺縁系)”の活躍の場がもっぱら仕事に限定されてしまい、歓楽街に繰り出すことも、デートを楽しむこともできなくなってしまうじゃないか」
なるほど。もっともな意見である。
これでは、企画部門や開発部門を希望する人が減少して、かえって会社の将来を危うくするかもしれない。
やはり、人間の生理にのっとった昼間の活動のなかに、「夜の思考」パターンを採り入れるのがベストのようだ。
ところが、前にも述べたように、肝心のオフィス空間が大脳新皮質用にできていて、大脳辺縁系が首をもたげる雰囲気にない。
創造性を発揮しようにも、容易にできない現状なのである。
一体、どうすればよいのか。
(次回に続く)