「ナイト・オフィス」の創設
そこで、私のオフィス空間改善ブラシの登場である。
昼間にも「夜の思考」が発揮できるような空間を、オフィス内に設けようというのである。
その名も「ナイト・オフィス」。
そのコンセプトはこうだ。
つまり、モラル、教養、プライド、義務感などからすっかり解放されることができ、自分が人間として持っている本能や感情を何の気兼ねもなく発揮できる空間であること。
これを実現させるのに必要な要素を独断と偏見で列挙すると、こうなる。
・外光を遮断し、照明(主として間接照明)は蛍光灯ではなくて白熱灯。
・時計をはずして、時間の経過がわからないようにする。
・床は、音を吸収するふかふかの絨毯。
・壁は木目調、机や資料棚なども木製のものにする。
・横になれるようカウチベッドを置く。
・クラシック音楽など好みのBGMが流れるようにする。
・好みの香をたく。
・好みのアルコール類を準備しておく。
・性的刺激が得られるような仕掛けがある。
・風呂あるいはシャワーの設備がある。
・電話は発信専用とする。
・上司はめったに顔を出さない。
もちろん、「夜の思考」に入る条件は人によって多少違うから、これらのすべてが必要なわけではない。
性的刺激なんぞがあろうものならとても仕事どころではない、という人は、これを外せばよろしい。
また、たとえば「ルーティン」として欠かせない小道具があるのなら、それを持ち込めばよろしい。
そして週に一日程度は、「デイ・オフィス」と「ナイト・オフィス」のメンバーを入れ替える。
創造性を求められる人にも事務的な仕事はあるし、事務的な処理を専門とする人たちにもときとして創造性が求められるはずだから。
実は、私のオフィスは「ナイト・オフィス」に近い状態にある。
訪れる人に、「ここはいつ来ても、夜のようですね」とよく言われる。
ビルとビルの谷間に隠れた古色蒼然たる建物の一角を占める我がオフィスは、否応なく外光がほとんど入らないのである。
狭いながらも従業員用に細かく区切ったスペースがあって、朝夕以外、彼らとまったく顔を合わせないこともある。
私専用の部分には、趣味に従ってBGMも流れるし、香りも立っているし、隅にベッドも置いてある。
風呂やシャワーこそないけれど、性的刺激に類するようなものも控えめに鎮座ましましている。
残念なのは「デイ・オフィス」がないこと。
だから、私はここで、「昼間の思考」にのっとった作業もしなければならないという辛い状況にある。