R/C/T 残像メンタルトレーニング

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【コラム】残像メンタルトレーニングの誕生

04.部屋は心のカウンセラー

残像メンタルトレーニングの誕07

この部屋は、寝室に続くプライベートなサロン。
私たち夫婦が、本当の意味で裸になって今日一日を振り返り、また将来のあれこれを語り合うところ。
だから、天井からのやわらかい間接照明がいいわね・・・・・・・

ロッシ邸の本邸に着いた私を出迎えてくれたのは、ロッシ夫人。
会長とは四十歳ほども歳が離れていると聞かされていたがその通りの若さと美貌。
夫人はさっそく、本邸内を案内してくれた。
冒頭にも記したように、歌うような調子で。
その耳当たりのよい声で語られる部屋のイメージを聞きながら、二十数室のひとつひとつを歩いていると、まるで美術館を、きれいな学芸員に案内されているかのような錯覚に陥 ってしまう。
それにしても、その空間構成のあまりの見事さ⋯⋯。
それまで私は、ヨーロッパの貴族や金持ち連中は、なぜ、二十室とか三十室といったバカげた部屋数を持つ家に住むのかと、単純な疑問を抱いていた。
「金持ちなんだ」という単なる見栄にすぎないのではないかと、いささか軽蔑もしていた。
ところが、このロッシ邸はどうだ。
夫人の語るイメージに従えば、「悲しみをやわらげる部屋」「過度の興奮をさます部屋」「目的を見出す部屋」「気分がハイになる部屋」「瞑想室」とでも名づけられるような部屋が、それなりの理由を持って配置されている。
内装もまた、それなりの理由を持ってほどこされようとしている。
たとえば、彼女の指示通りに出来上がった「過度の興奮をさます部屋」。
全体は、長方形といったような決まり切った形ではなく、強いて言えばし字型。
南側には大きな開口部が設けられ、庭の豊かな緑との一体感が得られるように配慮されていて内部にも大きな植木が置かれ、ガラスがないと、どこまでが部屋で、どこからが庭か判然としない。
家具はすべて、威圧感を感じさせないような背の低いもの。
マントルピースも、火が入っていないと、どこにあるのかわからないほど小さくて素朴なレンガ積み。
一人がけ用の深々としたソファーと、横になれるカウチ・ソファーが無造作に置かれ、壁には、自然を題材にした重厚な絵画が掛けられて、まるで家の歴史をしのばせるよう⋯⋯。
彼らはここで、日常の些細な出来事に感情を乱したことを恥じ、自分たちの血の流れを深く感じて、大きな、広い心をよみがえらせようとするのだろうか。

残像メンタルトレーニングの誕08

そしてまた、「気分がハイになる部屋」の場合。
部屋全体は正方形に近く、入り口から引いた線を軸にしてシンメトリーに構成されている。
中央のマントルピースを中心に窓や家具、それに照明器具が配置され、深々としたソファーではなくて、クルミ材でつくられた堅い座り心地の椅子が各所に置かれている。
真っ白の壁には、ランダムに掛けられた、激しいといっていいほどの色使いの抽象画。
そして、東洋人の私には少しきつい香がたかれ、かくされたスピーカーからはジャズ・ピアノが流れる。
飲み物は酒棚にあるスピリッツのみ。
この部屋で、彼女はあるときは絵を描き、あるときは自分が主催するパーティのシミュレ ーションを行う。
――「チャオ! 」 友人たちが笑顔をふりまいて玄関から入ってくる。
いささかオーバー気味の抱擁とキッス。
ロベルタにはこういう抱擁の仕方で、セルジヨにはちょっと抱擁をしたあとで、とっておきのギャグを。
彼の大喜びする顔を頭に思い浮かべる・・・・・。
時が過ぎると、一生懸命のもてなしで心なしか疲れ気味の私。
それでも笑顔を絶やさず、しっかりとお客様を送り出す。
最後のお客様を見送ると、明かりを消してしばしその部屋にたたずみ、喧騒の余韻を楽しんでいる自分⋯⋯。
そこまでのストーリーを、彼女はマントルピースの炎を見つめながら、ジャズ・ピアの調べを聴きながら、強いスピリッツを口に含んでシミュレーションする。
だから、彼女のパーティはいつも大成功。
考えてみれば、この部屋には、人間の五感のすべてにアプローチできる要素がある。
きっちりした部屋の形態や激しい色使いの絵画といった視覚、リラックスしてしまわない堅い座り心地の椅子といった触覚、気分を高揚させるジャズ・ピアノといった聴覚、脳を刺激するきつい香りといった嗅覚、一時の気のゆるみも許さない強い酒といった味覚・・・。
それは、今や日本でも流行となっている各種セラピーをひとつにまとめあげたようなものだ。
この部屋だけではない。
ほかの部屋にしても同様の配慮がそこここに見られ、それぞれが人間の心のカウンセラーの役割を担っている。
そして、それの集合体として、二十数室を有する本邸が存在しているのである。
ヨーロッパの邸宅は、何百年も前から、肩肘張らずにひとつひとつ学習と経験を積み上げて自然にこのような空間構成をつくり上げ、また、ほとんど無意識に使いこなしている。
そのことを、ロッシ邸の内装工事を通して知ったとき、私は大変なショックを受けた。

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