R/C/T 残像メンタルトレーニング

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【コラム】残像メンタルトレーニングの誕生

07.建築家が志すこと

残像メンタルトレーニングの誕11

ひるがえって、我が日本はどうかというと――
極端な例かもしれないが、夫が家に帰ってくるのは単に寝るためだけ。
主婦もカラオケにいそしみ、子供たちは夜遅くまで友人と遊んで過ごし、家にはほとんどいない。
家族の住宅での滞在時間は、ヨーロッパに比べたら一体何分の一になるのだろうか。
それほど、住宅や家庭といったものに魅力がないのか、また興味がないのか・・・・
ここで、住宅や家庭をどう定義すればよいのか、ちょっと考えてみよう。

当初の私の住宅設計というものに対する考え方は、まず、過酷な自然環境から人間の体を守れる構造体をつくること。
そして内部は、動きやすくて使いやすい空間づくり。
つまり、構造と機能をうまく両立させるべく、与えられた空間をパズルのようにいろいろ仕切ってみて、そのなかから最良の組み合わせを見つけるのが仕事と考えていた。
ここでいう“機能”とは、あくまでも物理的なもの。
家族全員が集まれる居間、昇り降りしやすい階段、使いやすい台所、操作しやすい設備や機器といった、いわばハード面での要素である。
もちろん、ハード面は第一義的に重要である。
しかし、ロッシ邸の内装工事をはじめ、ヨ ーロッパでの様々な経験を積むにつれ、それだけでは尚不十分な事を私は思い知らされた。
住宅は、人間が日常的に暮らすところである。
人間が対象である以上、その精神的要素を考慮に入れなければならないのは当然だ。
ロッシ邸の内装工事は、壁や天井のクロスの柄、床のカーペットはもちろんのこと、驚いたことに、そこで履くスリッパ、ドアの取っ手、灰皿、さらには夫人のナイトガウンやランジェリーまでもデザインするものだった。
ひとつのコンセプト、その家の住人の心のありようが、すべてに流れる―それはつまり建築家は「メンタルトレーナー」でなければならないと言う事・・・・
では、建築家は、どんなメンタルな部分に注意を払えばよいのだろうか。
人の心は人それぞれだが、共通する部分もあるに違いない。
ロッシ邸の「過度の興奮をさます部屋」「気分がハイになる部屋」の内装が、万人にとっての目的にふさわしいとは思えない。
しかし、本邸の二十数室もの部屋構成がほかの大邸宅でも近い形で見られることからすれば、必要が自然発生的にその空間をつくり出し、長い時間をかけて現在のようなものになったと考えられる。
それをもたらした人間に共通する精神的要素とは、一体何だろうか。

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